【12】企業分析事例

ABC-MARTのポジショニング戦略

前回はABC-MARTの環境変化要因に対する対応として、PB商品の比率を下げてナショナルブランドの構成を高めたという政策についてお話をしました。

利益率が低下するのを広告宣伝費を削減し営業利益を増加させました。

そして商品カテゴリー別の売上構成の中で中心的に位置づけられているのは「スポーツシューズ」ということを確認しました。

スポーツシューズは構成比51%であり、前年成長率も24%ということでABC-MARTの生命線とも言えるカテゴリーと言えるでしょう。


今回はABC-MARTのポジショニングについて考えていきたいと思います。




まずスポーツシューズ市場規模の推移から見ていきましょう。

矢野経済研究所によると2013年のスポーツシューズ国内出荷市場規模は数量ベースで前年比103%の81,310千足、金額ベースで105%拡大の302,820百万円と報じています。




スポーツシューズの中でも多目的シューズ(一般カジュアルスニーカー)、ランニングシューズ、ウォーキングシューズの3種で60%を占めています。その中で多目的とウォーキングは前年比も高い構成となっています。



ランニングシューズはメーカー直営店やスポーツ専門店で購入されることが多くABC-MARTの品揃えとはマッチしていないと考えます。


ランナー世論調査はランニング歴10年以上の回答者が最も多く、月間走行距離が50km以上の回答者がほとんどであることから、本格的にランニングをしている人と類推できます。


ランナー世論調査2014参照

http://runnet.jp/project/enquete/2014/result/05.html

http://runnet.jp/project/enquete/2014/result/07.html#here


そうした所謂ランナー以外の人、ファッションとしてスポーツシューズを着こなす(履きこなす)人がABC-MARTのメイン顧客と考えられます。

となるとABC-MARTは多目的シューズやウォーキングシューズの分野で顧客のニーズに応える事ができたと仮説を立てる事ができます。

特にウォーキングは商品単価も高く販売効率の面でも良いカテゴリーです。


詳細に調べてはいませんがHawkinsブランドでウォーキングニーズを捉えているのではないかと類推します。

一方ライバル企業の動向はどのようになっているでしょうか?

大手靴小売りチェーン店はABC-MARTの他、「靴流通センター」の株式会社チヨダ、イオングループの「ASBBE」などを展開する株式会社ジーフットが代表格です。
ABC-MARTが売上利益ともに前期比15ポイント増加しているのに比較して、


チヨダは

売上高107,391百万円(前期比△2.9%)
営業利益6,279百万円(前期比△23.3%)

とやや苦戦しています。

苦戦の要因として消費税率引き上げによる個人消費の低迷や天候不順に伴う季節商品販売の不振を挙げています。
ただこれらの要因はもちろんABC-MARTやASBEEにも言える事ですので、環境変化への対応が充分でなかったと言わざるを得ません。


ジーフットの方は

売上高78,726百万円(前期比+5.6%)
営業利益4,008百万円(前期比+13.1%)

ジーフットは集客力のあるイオンショッピングセンター内にあることが多く、客層もファミリーを中心として全年代にバランスよく販売していると類推できます。
商品別構成ではABC-MARTと同じく、スポーツカテゴリーを伸ばしていますが、構成比としては婦人靴、スポーツとツートップとしていながら運動靴・子供靴と紳士靴とバランス良い売上構成となっています。ファミリーでイオンショッピングセンターに来店しそれぞれの靴を購入していただく戦略と言えるでしょう。



3社の利益構造を比較してみました。



ABC-MARTの利益率の高さが際立ちます。
3社は国内の代表的な靴小売りチェーンですが、ビジネスモデルとしては
似て非なるモノと言えるでしょう。


HPにABC-MARTの強みとして 現場のパワー というキーワードがあります。
強みとして以下4点を掲載しています。
① 店舗戦略
② 商品・ブランド戦略
③ 運営戦略
④ 人材育成戦略

以下に概略を示します。

①店舗戦略 ・・・ 地域、商圏に適合したスピーディな出店/新業態、新形態店舗の開発/市場の変化に対応するリニューアル
②商品・ブランド戦略 ・・・ 自社ブランドの保持・強化・育成/海外ネットワークから得る開発情報/ナショナルブランドとの連携
③運営戦略 ・・・ POSシステム活用による販売力の底上げ/高度なシステム活用による次の一手/物流システムの効率化
④人材育成戦略 ・・・ 現場の重視/強力な販売力/強いリーダーシップとチームワーク


どれもABC-MARTの価値を高める重要な戦略ですが、私は特に②と③が競争力の源泉であると考えます。

利益率の高い自社ブランドHawkins、VANS、NUOVOとナショナルブランドのミックスがファッションに敏感な層に対して高い価値を提供していると考えます。

そうした商品開発とマーチャンダイジングはPOSを中心とした販売システムから得られた仮説設定と仮説検証に裏打ちされていると考えます。


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ABC-MARTはデータと現場販売員の接客という定性データから、若者を中心としたファッションに敏感な層に対して、流行の発信を価値として提供しているというポジショニング戦略をとっていると考えます。

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店内にはカラフルで楽しそうな靴が陳列されています。ショッピングセンターにあって通路との境目がなく、入店しやすい雰囲気もあります。

そうした心理的な抵抗感が少ない店舗形態も工夫されていると思います。

見込客は靴を購入する用がなくても覗いてみたくなる、店内に入りたくなるのだと思います。

販売力を持った小売企業が商品企画力を持つと他を寄せ付けない強さを発揮するということです。

そう考えるとコンビニ業界におけるセブンイレブン、SPAを確立したユニクロなど他業種においても成功の類似性を見出すことができます。
核となる商品力と販売力にさらに磨きをかけるのが現場力と解釈します。

顧客の嗜好や購買行動は現場がよく知っています。
購買時点で顧客の特性やニーズに合わせる事はとても重要だし、効果が高いと考えます。

そして企画へ展開していくという好循環を描いていると類推します。

次回はABC-MARTの売上推移と今後の成長戦略について考えていきたいと思います。

執筆者:蛭川 速 / 2015.04.10